糖尿病の治療について

糖尿病治療の目標は、血糖、血圧、脂質を上手にコントロールして合併症の進展を防止し、健康な人と変わらない日常生活の質を維持することです。
糖尿病治療の基本は、食事療法や運動療法ですが、これらで十分な効果が得られない場合には薬物療法を行います。

食事療法

食事療法は糖尿病治療の基本です。適切な食事の量(エネルギー摂取量)を知り、栄養のバランスを考えた食事をとるようにしましょう。
1日のエネルギー摂取量は下記のように計算します。

エネルギー摂取量(kcal)=目標体重(kg)*1 ×エネルギー係数*2
*1:目標体重の目安は年代によって異なり一定の幅があります。
65歳未満:身長(m)×身長(m)×22 
前期高齢者(65歳~74歳):身長(m)×身長(m)×22~25
後期高齢者(75歳~):身長(m)×身長(m)×22~25*
*75歳以上の高齢者では現体重に基づき、身体状況、摂食状況その他様々な要素を評価して判断します。
*2:エネルギー係数は、身体活動量に応じて設定します。

軽い労作
(座っていることが多い生活)
25~30 (kcal/kg目標体重)
普通の労作
(通勤・家事、軽い運動など)
30~35 (kcal/kg目標体重)
重い労作
(力仕事、強度が強い運動習慣)
35~ (kcal/kg目標体重)

例えば身長160㎝で50歳の主婦の場合

目標体重1.6×1.6×22=56.3(kg)
エネルギー係数 30~35(kcal/kg目標体重)
1日のエネルギー摂取量は 56.3(kg)×30~35(kcal/kg目標体重)≒1690~1970kcal
となります。

1日のエネルギー摂取量が決まったら、炭水化物(体のエネルギー源)、たんぱく質(筋肉や臓器など体を作る重要な栄養素)、脂質(体のエネルギー源となり、ホルモンや細胞などを作る材料)ビタミン、ミネラルなどの各栄養素が、必要量バランスよく摂れるよう配分します。
摂取エネルギーのうち、炭水化物は40~60%、たんぱく質は20%までとして、残りを脂質としますが、脂質が25%を超える場合は飽和脂肪酸が多くならないよう注意します。
なお、合併症や患者さま一人ひとりの状況によって、個別に配慮が必要になる場合もあります。

当院では管理栄養士による栄養指導を行っております。詳しくは栄養指導のページをご覧ください。

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運動療法

運動には、インスリンの働きをよくしたり、エネルギーとしてブドウ糖を使うことにより血糖値を下げる効果があります。食事療法とうまく組み合わせて、減量効果が期待できます。また、筋力や心肺機能を維持し、向上させる効果もあります。さらに高血圧や脂質異常症も改善させます。

運動療法を進めるにあたって、合併症によっては運動制限が必要な場合もあるため、始める前にメディカルチェックを受けて自分に合った運動を選ぶようにしましょう。
血糖値を下げるために効果的な運動は、有酸素運動でウォーキングやジョギング、水泳などです。ウォーキングでは、1回15~30分間、1日2回、1日の運動量として1万歩を目指すことが推奨されています。
有酸素運動に加えて筋力トレーニングも有効な運動ですが、血管や心臓に負担になることがあるため、始める前に担当の先生に相談しましょう。

運動療法を行う際、血糖降下作用のある薬剤を使った治療を行っている場合、低血糖になる可能性もあるため注意が必要です。また、靴擦れを起こさない靴を選ぶようにしましょう。

薬物療法

食事、運動療法を適切に行っても血糖コントロールが不十分な場合、薬物療法がおこなわれます。年齢や肥満の程度、合併症の有無、肝臓や腎臓の機能、インスリンを出す能力、インスリンが効きにくい状況になっていないかなどを考慮して、飲み薬と注射薬の中から選択します。

内服薬

糖尿病の飲み薬について、その作用から膵臓に働いて「インスリンを出しやすくする薬」、肝臓や脂肪細胞に働いて「インスリンを効きやすくする薬」、腸や腎臓に働いて「糖の吸収や排泄を調節する薬」の三つに分類して説明します。
内服薬の一覧表

インスリンを出しやすくする薬

  • スルホニル尿素 (SU) 薬
  • 速効型インスリン分泌促進薬 (グリニド薬)
  • DPP-4阻害薬
  • GLP-1受容体作動薬*
  • イメグルミン(インスリンの効きをよくする働きもあります)

インスリンの効きをよくする薬

  • ビグアナイド薬*
  • チアゾリジン薬*

糖の吸収を調節する薬

  • α-グルコシダーゼ阻害薬*

糖の排泄を調節する薬

  • SGLT2阻害薬*

注射薬

糖尿病の注射薬には「インスリン製剤」と「GLP-1受容体作動薬」、「GIP/GLP-1受容体作動薬」があります。
注射薬の一覧表

インスリンが必要になるのは以下の場合です。

インスリン療法が必須となるのは

1型糖尿病のようにインスリンを作れない状態、糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態により高血糖性昏睡に陥っている場合、重症の肝障害、腎障害を合併しているとき、重症感染症に罹っていたり、外傷を負っていたり、全身麻酔で手術を行うとき、妊娠中に薬物療法が必要な状況のときなどがあげられます。

インスリン療法を行った方がよいのは

インスリン非依存状態であっても、空腹時血糖値250mg/dL以上、随時血糖値350mg/dL以上等の著明な高血糖を認める場合、経口薬療法のみでは良好な血糖コントロールが得られない場合、やせていて栄養状態が低下している場合、ステロイド治療時に高血糖を認める場合などがあげられます。

インスリン製剤

インスリン製剤には下記の種類があります。

  • 基礎インスリン分泌を補う製剤(持効型溶解インスリン製剤、中間型インスリン製剤)
  • 追加インスリン分泌を補う製剤(超速効型インスリン製剤、速効型インスリン製剤)
  • 超速効型あるいは速効型と中間型を混合した混合型インスリン製剤
  • 超速効型と持効型溶解の配合溶解インスリン製剤

インスリンの種類と作用時間

自己血糖測定や持続グルコースモニタリング

インスリンやGLP-1製剤を自己注射している場合、必要に応じて機器を貸し出して、自己血糖測定や持続グルコースモニター(フリースタイルリブレ)を行い治療に役立てます。